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東京地方裁判所 昭和41年(特わ)65号 判決

本店所在地

東京都足立区千住東町七十五番地

須川板金工業株式会社

(右代表者 代表取締役 須川金太郎)

本籍

東京都墨田区東駒形四丁目十八番地

住居

東京都葛飾区金町一丁目八百十五番地

会社々長

須川金太郎

明治三十七年八月二日生

本籍

東京都葛飾区金町一丁目七百四番地

住居

同右

会社員

斉藤春夫

昭和八年一月十九日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は検察官品田賢治、弁護人塚田重頼(主任)、同池田克がそれぞれ出席して公判を開き、次のように判決する。

主文

1  被告会社を罰金一、〇〇〇万円に

被告人須川、同斉藤を各懲役四月に

それぞれ処する。

2  但し、被告人両名に対し、この裁判確定の日から

二年間それぞれ右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社は、東京都足立区千住東町七十五番地に本店を置き、自動車部品及び鉄道車輛部品の製造等を営業目的とする資本金五千万円の株式会社であり、被告人須川金太郎は、右会社の取締役社長として業務全般を統轄しているものであり、被告人斉藤春夫は、右会社の総務部長として会計経理事務等を担当しているものであるが、被告人須川・同斉藤の両名は、共謀の上被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上除外や架空仕入、架空経費を計上する等して簿外銀行預金を蓄積する等の不正な方法によって、被告会社の所得を秘匿した上

第一、昭和三十七年一月一日より同年十二月三十一日までの事業年度において、被告会社の実際所得金額が一億一千八百六十一万二千五十円で、これに対する法人税額が、四千四百三十六万二百十円であったのに拘らず、昭和三十八年二月二十八日東京都足立区千住旭町五十二番地所在の所轄足立税務署において、同税務署長に対し、所得金額が四千五百八十一万九千二百十二円で、これに対する法人税額が一千六百八十一万五千七百二十円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって被告会社の正規の法人税額と右申告税額との差額二千七百五十四万四千四百九十円を逋脱し

第二、昭和三十八年一月一日より同年十二月三十一日までの事業年度において、被告会社の実際所得金額が一億一千二十七万四千二十四円で、これに対する法人税額が三千八百二十三万四千三百十円であつたのに拘らず、昭和三十九年二月二十九日、前記足立税務署において、同税務署長に対し、所得金額が四千八百六十二万一千四百七十九円で、これに対する法人税額が一千七百十二万百四十円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて被告会社の正規の法人税額と右申告税額との差額二千九十一万四千百七十円を逋脱し

たものである。

(証拠の標目)

A、一、登記官島倉昭郎作成の登記簿謄本二通

二、足立税務署長作成の「青色申告書提出承認の取消通知書(写)の送付について」と題する書面

三、大蔵事務官水津正行作成の固定資産の減価償却計算書六通

四、大蔵事務官小笠原博作成の証明書(法人税決議書)(写)

五、三井銀行千住支店長塩山豊作成の証明書五通

六、平和相互銀行千住支店長山岸四郎作成の証明書二通

七、協和銀行千住支店長生田隆吉作成の証明書四通

八、三井銀行上野支店長鶴田藤、三和銀行八重洲口支店長広部敏邦、富士銀行八重洲口支店長松岡英澄、三菱銀行雷門支店長榎本龍、三井銀行渋谷支店長井上直通のそれぞれ作成した証明書各一通

九、北海道拓殖銀行東京支店長五味彰作成の「貴東局査察第一〇九号に基つく預金元帳写の送付について」と題する書面

一〇、足利銀行東京支店長向江久夫、伊豫銀行東京支店長梅村源一郎、埼玉銀行浅草支店長中島琢治、常陽銀行上野支店長菊池一郎、中央信託銀行上野支店長夫馬政晴、北国銀行東京支店長西田又衛、日本相互銀行三ノ輪支店長石井一郎、朝日銀行菊屋橋支店長吉村幸久、東京相互銀行日本橋支店長太田亨、千葉銀行東京支店長内藤満州也、青森銀行東京支店長藤沢巳好、大和銀行雷門支店長長谷川敏彦、百十四銀行東京支店長松本信一、北陸銀行浅草支店長野口敏夫、群馬銀行東京支店長正田光次郎、三井銀行東京支店預金課長手島茂、大和銀行八重州口支店、大和銀行丸の内支店長岩城信夫、住友銀行新橋支店長延命直松、富士銀行蛎殼町支店長辻博夫、協和銀行堀留支店長有賀政之進、埼玉銀行日本橋支店長山本俊雄、三菱銀行大伝馬町支店長生田幸夫、日本勧業銀行横山町支店長大関興己、東海銀行小舟町支店長立松正男、三和銀行堀留支店長嶋田武彦、足利銀行堀留支店長町井水雄、大和銀行上野支店長宮下光弘、三和銀行上野支店長永喜多五朗のそれぞれ作成した証明書各一通

一一、国税査察官水津正行各作成の売上計上洩及び簿外受取勘定調書、仕入先別架空仕入金額調書、架空買掛金末払金調書、架空支払手形調書、雑収入(リベート)調書、雑収入(スクラップ)調書、材料有高調書、仕掛品製品棚卸脱漏額調書、製造総費用額調書、架空給与認定調書、架空給与額算定基礎及び預金設定対比調書(仮払税金調書)、三八・七賞与支給実態調書、資本的支出調書、簿外交際費確定調書、預金残高及び利息収入調書、簿外貸付金調書、実際株主別の所有株数調及び認定貸付金額調書(二通)、預り金額調書、簿外実名預金仕訳調書二通、簿外賞与額確定調書、交際費調書二通、三八年中の型代売上未計上額調書(売掛金調書)、その他所得関係調書(売掛金及未経過利息関係を除く)、銀行調査書

一二、大蔵事務官作成の須川銀之助に対する質問てん末書三通

一三、須川銀之助の検察官に対する供述調書二通

一四、大蔵事務官作成の丸山和夫(三通)、関根吉太郎、島影信正(二通)に対する各質問てん末書

一五、島影信正、中村実の検察官に対する供述調書各一通

一六、大蔵事務官作成の中村実、鈴木峯夫、面来邦彦に対する質問てん末書各一通

一七、面来邦彦の検察官に対する供述調書

一八、大蔵事務官作成の西脇秀夫・大井良子・稲葉宗治に対する質問てん末書各一通

一九、稲葉宗治の検察官に対する供述調書

二〇、大蔵事務官作成の山口松次に対する質問てん末書

二一、山口松次の検察官に対する供述調書

二二、大蔵事務官作成の宮田龍伊知に対する質問てん末書

二三、宮田龍伊知作成の上申書

二四、同人の検察官に対する供述調書

二五、大蔵事務官作成の関口市太郎に対する質問てん末書

二六、関口市太郎の検察官に対する供述調書

二七、大蔵事務官作成の池田三郎、真通隆(二通)、清水正一、佐藤理忠治、服部隆次(二通)に対する各質問てん末書

二八、服部隆次の検察官に対する供述調書

二九、大蔵事務官作成の吉本助次(二通)、吉村幸久、山浦捷人に対する各質問てん末書

三〇、山浦捷人の検察官に対する供述調書二通

三一、大蔵事務官作成の浜里亘、松田圭司に対する質問てん末書各一通

三二、松田圭司の検察官に対する供述調書

三三、大蔵事務官作成の須川泰夫に対する質問てん末書

三四、中野有夫、萩原義雄、栗原敏夫、岩橋勝、田村米重、池田三郎、佐藤理忠治作成の各上申書

三五、坂爪清、瀬田元吉、真通隆、田沼清樹、三藤機械製作所、本間充、西川猪佐雄、杉本儀一、飯島茂一、大原機械工業株式会社作成の各回答書

三六、篠原義治、信元安貞(二通)、霜山定之助、佐々木政吉、大沢徳太郎(二通)、飯田光男、吉田謙造、松木賢吉作成の各上申書

三七、大蔵事務官水津正行作成の検査てん末書

三八、大蔵事務官佐藤重雄作成の製品現在高検査てん末書、材料(鉄板)現在数量検査てん末書

三九、斉藤勝爾他一名作成の調査てん末書

四〇、平山栄一、岩谷恒雄、福田正雄、池田蔵三、早津敏夫、上野恒男、中村三徳、高橋与四郎、水津正行、向後估雄、高木健次郎、斉藤勝爾、水津正行(以上いずれも大蔵事務官)作成の現金有価証券等現在高検査てん末書各一通

四一、斉藤逸朗他一名作成の不動産鑑定評価書

B、一、被告人須川作成の提出書

二、大蔵事務官作成の同人に対する質問てん末書五通

三、被告人須川作成の上申書七通

四、同人の検察官に対する供述調書二通

五、大蔵事務官作成の被告人斉藤に対する質問てん末書九通

六、被告人斉藤作成の上申書一三通

七、同人の検察官に対する供述調書五通

C、いずれも押収にかゝる

一、領収書(38・1・1~38・12・31)一二綴(昭和四一年押第一六三三号の一)

二、同(37・1・1~37・12・31)一二綴(同押号の二)

三、総勘定元帳(35・36・37)三綴(同押号の三)

四、仕入帳(35・36・37・38)八綴(同押号の四)

五、売上帳(35・36・37・38)六綴(同押号の五)

六、雑収入帳一冊(同押号の六)

七、会計伝票(三十八年)六綴(同押号の七)

八、同(三十八年埼玉工場分)一二綴(同押号の八)

九、検収通知書三綴(同押号の九)

一〇、材料棚卸表(三十七年)一綴(同押号の一〇)

一一、同(三十九年)一綴(同押号の一一)

一二、三十七年度在庫帳一綴(同押号の一二)

一三、給料明細表六綴(同押号の一三)

一四、賞与計算明細二袋(同押号の一四)

一五、製品半製品在庫調(38・12・31現在本社工場分)(同押号の一五)

一六、売上帳(三十八年)一冊(同押号の一六)

一七、37年度スクラップ売上帳(本店/埼玉)一冊(同押号の一七)

一八、税務関係書類等一綴(同押号の一八)

一九、たな卸表他(38・12・29)(内訳表)(同押号の一九)

二〇、棚卸明細表(38・12・31)一袋(同押号の二〇)

二一、建築関係書類一袋(同押号二一)

二二、仕訳表二八〇綴(同押号の二二)

二三、給与明細表三綴(同押号の二三)

二四、ヱスビー産業(株)関係 一 (同押号の二四)

二五、給料明細表四綴(同押号の二五)

二六、スクラップ関係綴四綴(同押号の二六)

二七、在庫調一袋(同押号の二七)

二八、税務署提出書類一綴(同押号の二八)

二九、地方税関係書類三綴(同押号の二九)

三〇、社宅建築関係見積書一袋(同押号の三〇)

三一、給料賞与袋及給与支払明細書一袋(同押号の三一)

三二、三井積立預金通帳(同押号の三二)

三三、預金メモ帳一綴(同押号の三三)

三四、棚卸表一袋(同押号の三四)

三五、印鑑一四個(同押号の三五)

三六、定期預金計算書一袋(同押号の三六)

三七、通知預金利息計算書一袋(同押号の三七)

三八、預金メモ一袋(同押号の三八)

三九、定期預金計算書一袋(同押号の三九)

四〇、印判九個(同押号の四〇)

四一、木製印判二個(同押号の四一)

四二、印鑑四個(同押号の四二)

四三、同 一個(同押号の四三)

四四、同 三個(同押号の四四)

四五、定期預金期日表二綴(同押号の四五)

四六、裏預金メモ二綴(同押号の四六)

四七、同 二冊(同押号の四七)

四八、定期預金メモ四枚(同押号の四八)

四九、印鑑二一個(同押号の四九)

五〇、手帳一冊(同押号の五〇)

五一、埼玉工場増築工事関係書類一袋(同押号の五一)

五二、原価計算関係書類一箱(同押号の五二)

五三、端材料台帳三冊(同押号の五三)

五四、材料入庫明細一冊(同押号の五四)

五五、物品出納帳(鉄板)一綴(同押号の五五)

五六、三六・一・一~三六・一二・三一事業年度分確定申告書一綴(同押号の五六)

五七、三七・一・一・~三七・一二・三一事業年度分確定申告書一綴(同押号の五七)

五八、三八・一・一~三八・一二・三一事業年度分確定申告書一綴(同押号の五八)

五九、三七年スクラップ関係綴(伝票外)一綴(同押号の五九)

(法令の適用)

1、(被告会社に対し)

昭和四〇年法律第三四号附則第一九条・改正前の法人税法

第五一条第一項・第四八条第一項・刑法第六〇条

同法第四五条前段・第四八条第二項

(被告人両名に対し)

昭和四〇年法律第三四号附則第一九条・改正前の法人税法

第四八条第一項(懲役刑を選択)・刑法第六〇条

同法第四五条前段・第四七条本文・第一〇条(判示第一の罪を犯情が重いと認める)

2、刑法第二五条第一項

(量刑の事情)

本刑の情状につき考察するに

一、本件は判示のように、売上除外・架空仕入および架空経費計上による簿外銀行預金の蓄積等の不正手段により所得を秘匿した上、判示第一の事実につき二千七百五十余万円、同第二の事実につき二千九十余万円、合計四千八百四十余万円に達する巨額の脱税を敢えてしたもので、憲法に規定せられた国民の最大義務の一つである納税義務に違背し、国家の課税権を侵害すること甚だしいものがある。

等、被告人等に不利な事情が認められる。

二、しかしながら、他方

(一)  被告人須川金太郎は小学校四年中退以来、家業に精励して現在の須川板金工業株式会社を経営するにいたつたもので、同被告人が十数年前、事業に失敗し、工員の給料等の支払にも窮して苦境に立たされた苦い経験に鑑み、預金の増加蓄積を図つて不況時に備えようと考えて本件犯行を犯すにいたったもので、その動機につき汲むべき点なしとしないこと

(二)  被告人両名には前科がなく、また被告人両名は前非を悔い改悛の情が明らかで再犯のおそれがないと言えること

(三)  右改悛の情を現わす一端として、被告人等は本件発覚後修正申告をして本件脱税の本税・重加算税・過小申告加算税・延滞税の全額を完納し、また、右に伴う地方税関係についても、その大部分を納付し、残額についても、所轄東京都足立税務事務所に約束手形を提出して昭和四一年中に納付を約していること等、被告人等に有利な諸事情が認められる。

以上の諸点および本件の審理に現われた被告人等に有利・不利なその他の諸事情を総合すれば、被告人等に対しては、主文のように

被告会社を罰金一、〇〇〇万円

被告人両名を各懲役四月(ただし各二年間の執行猶予)

に処するのが相当であると思料した次第である。

(裁判官 東徹)

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